海外安全こぼれ話

2014.11
監事 大日方和雄
ハニー・トラップ

海外に行くと思わぬ事に出会いびっくりしたり、困惑したり、楽しみはたえない。

ハニー・トラップ! 何とも魅惑的な言葉だ。できることなら、許されることなら、とっぷりと罠にかかってみたい! しかし、世の中そんなに甘くできていないので、そうは問屋が卸さない。

先日、日本書紀を読んでいたら、実にすごいトラップのことが書かれていた。 仲哀紀62年、新羅が貢物を奉らなかったので、葛城のソツヒコに新羅を討てとの命が下った。ソツヒコは直ちに赴いたのであるが、その報に接するや新羅王はソツヒコが到着した港に着飾った美女2名を派遣した。(目的はハニー・トラップにかけることであろう。どんなにめくるめく美女か、どんな甘美な手練手管があったのかは書かれていないが)勇者ソツヒコは美女を受け入れ、新羅を討つという使命を忘れ、あろうことか親倭であった加羅国を討つ始末。(たぶんソツヒコは、倭育ちで純情にして可憐、このような姦計に疎かったのであろう)そして時は速やかに過ぎ、2年もの間甘い生活に浸っていた。(しかし、楽しみが永く続くはずもなく)やがてそのことが倭に知れ、倭はモクラコンシを派遣し、その武力で加羅国を再建させた。ソツヒコは帰国せず逃亡したが、やがてじぶんの妹が神功皇后そば近くに仕えていることを聞き、そのつてで自分に対する倭の意向を聞いた。皇后の怒りは激しく到底許されないことを知ると、自ら岩穴に入り死んだ。

ハニー・トラップは現在でも仕掛けられている。ターゲットは、外交官、政治家、軍人、海外にきた実力者、自国に有利に使えるようであれば、誰でもいいらしい。 私がロンドンに在勤中ロンドンの領事団の会合に、ある日、中欧のある国の領事と名乗る女性が来た。その会は毎月開かれているのだが、初顔である。これが極めつけの美女、限りなく蠱惑的である。見ただけでクラクラするというのはこんな女人であろう。誰がターゲットであったかは知らないが、領事団の男性はほぼ全員がいかれたといっていい。実は私もその日の会合の内容は覚えていない。そして件の女性は翌月から一度も出てこなかった。 

協会社員の皆様の中には、自分は大した影響力を持っていないので狙われる心配はない、とお考えかもしれないが、トラップの動機は、国が仕掛ける国家の安穏にかかわることから、企業の技術力狙い、個人の恋情など動機はさまざまである。それにひっかかり、一生を棒に振った同僚、ビジネスマン、ジャーナリストなどを見てきた。海外渡航後政見を急変させた政治家にもトラップの噂がある。古代だけでなく現代でもけっして油断はできないのである。