海外安全こぼれ話

2015.01
監事 大日方和雄
ハニー・トラップ(その2 いくつかの事例)

海外に行くと思わぬ事に出会いびっくりしたり、困惑したり、楽しみはたえない。

前回では古代のハニー・トラップの話などをご披露したが、今回は、トラップ回避の一助までに、現代の事例をお話しする。

①1960年代末の西アフリカでの経験。仕事を済ませた後ホテルで夕食前に軽く一杯と思いロビー脇のバーへ入ったのだが、そこには着飾った現地人女性が大勢たむろしているではないか。まあ、夕方そんなところにいる女性の職業は見当がつくので相手にしなかったが、翌日現地の事情通に聞いてみると、ホテルは国営でそれら女性は全員公務員とのこと、つまり、手を出そうものなら女性から諜報機関に報告され、後でゆすりの種にされるところだった。

②西アフリカの某大使館に勤務していた私の先輩は、かねて豪の者と知られていた。ある日現地人の男が写真を持ってきてこれをばらすぞと脅してきた由。彼はそれを一瞥するや、少しも騒がず、「もっとすごい写真があるから見せてやろう」と反撃。相手は事態の意外な展開に驚き、あわてて引き下がってゆき、それで一件落着となった。

③企業から派遣され単身赴任中の日本人男性がいつしか現地人妻を得た。それが日本人本妻の知るところとなり刃傷沙汰となった(「蝶々夫人」の現代版)。また、別の人は、現地人女性と恋の逃避行を敢行。その資金に会社の金を持ち出し、日本の親族が弁償したが、本人は行方不明のまま(近松の心中物の再現)、などの事例を見聞きした。

④日本から派遣され外地事務所に勤務している中年女性が現地人男性と恋仲になり結婚を決意。会社の上司がその男性を調べてみたら、現在無職で財産もないことが分かった。そこで結婚すれば俗にいう「ヒモ」を背負い込むことになりかねないから慎重に考えるよう説得したが、翻意せず結婚。その後女性は夫を養うため必死に働いている由。

⑤日本で定年退職した男性が東南アジアの若い女性と結婚し現地へ移住した。そこでは習慣上女性の親族の生活を支援しなければならず、日本から持って行った蓄えはすぐに底をつき、無一文になったところで家から追い出され路頭に迷ってしまった。中には路頭に迷うどころか命を落としてしまった例もある。

⑥最近読んだ「救国の政治家 亡国の政治家」という本に、「昔、建設省や自治省のエリート官僚が海外留学したり、・・・短期出張に行ったり、出向したりすることがあると、実に簡単にハニートラップでやられていると、・・・耳にしたことがある」とあった。これは明らかに政府が持つ情報を抜き取るためのトラップであり、もとより公務員は身を厳正に保たねばならないのであるが、こうした罠はいたる所に仕掛けられていると知るべきである。 (次回に続く)